タイの高齢化問題と介護ビジネス市場|人口動態・社会保障から読み解く

タイでは高齢化が急速に進行する中、介護への認識が高まっており、介護サービス需要が徐々に拡大しています。

今回はタイの高齢化問題と介護市場についてレポートします。

 

タイの高齢化問題と特徴

急速な高齢化。65歳以上の高齢者人口は907万人(高齢化率13%)

タイはアジアの主要新興国の中で、急速に高齢化が進んでいる国の一つだ。国連によると、タイの人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、 2005年時点で10.6%と既に「高齢化社会(高齢化率7%*)」に突入 した。そして、2030年には高齢化率が20%近くとなり「高齢社会(14%*)」へ、2050年にはその割合が30%を超え「超高齢社会(21%*)」を迎えると予想されている。

また、世界銀行の推計によると2022年に高齢社会に突入すると予測され、高齢化率が7%から14%へ要した期間である倍化年数は20年とかなり速いペースで進んでいる。フランスの115年、ドイツの36年、日本の24年と比べるとそのスピードが速いことが理解できる。そうした一方で、 少子化も進んでおり2019年の合計特殊出生率1.5 はASEAN主要国と比べても低い値だ。そして、2040年からは人口減少が始まる予想されている。(隣国ベトナムは既に2017年には65歳以上の高齢化社会へ突入し、2034年には高齢社会(同14%)、2049年には超高齢社会(同21%)になると予想されており、その倍化年数はタイより更に短い17年である。)

タイはASEANの中では中進国に分類され、2019年のGDPは約5,000億USドル(ASEAN2位)、国民一人あたりのGDPは約8,000USドル(同4位)に迫っており、順調な経済発展を経て中間層の所得が増加している。しかしながら、ASEANで最も大きい貧富の格差、都市バンコクへの人口集中などの問題も抱えており、 国が富む前に高齢社会に突入し介護問題が顕在化 し始めたタイでは将来の不安要素も大きい。

タイの高齢化問題を読み解くキーデータ_2020年_©CARE4VIETNAM作成

 

タイの介護事情

タイは他のASEAN諸国と同様に公的介護保障の仕組みは無く、家族を中心としたコミュニティレベルの在宅介護が一般的だ。在宅介護は病院や保健センターの看護師、政府が養成する健康ボランティア及びボランティア介護者、そしてメイド、家族、親類が行っている。

アジアでは全般的に「介護」というサービスに対する認識がまだまだ薄い事に加え、介護施設(老人ホーム)に対する印象もネガティブであることも多く、家族およびメイドが高齢者介護の主要な担い手となっている。こと、タイでは”高齢者の面倒は家族が最後まで観るのが当たり前という文化”が根強く残っており、年老いた両親を老人ホームへ預けることは親不孝と考えられることも多い。

しかし、近年の高齢化の進展、核家族化、都市化などにより、現実的に外部サービスの利用を余儀なくされている。特に、共働きの中間層の人々は、高齢の両親を介護施設に入居させる傾向が近年強くなっている。富裕層はメイドに加えて専属看護師を雇い、悪化すれば高級私立病院へ行くケースが多い

今後、認知症等の要介護の高齢者および、子供夫婦の共働きが増加し、介護への認識が変化すると共に、外部サービスを使った介護需要拡大はほぼ確実だろう。

地方のコミュニティケアの様子

 

高齢者向けの社会保障

医療保障制度

タイには様々な医療保障制度がある。加入者数が最も多いのは、タイ国民医療保障庁(NHSO)が提供する国民健康保険制度(UCS)である。

UCS以外の公的保障制度では対象外とされる全年齢層のタイ国民には、国民健康保険カード(UC)が提供され、居住地域内の医療センターおよび契約病院で、無料で治療が受けられる。このUCでは、1回の外来や入院につき30バーツの本人負担を徴収しており”30バーツ医療”の通称で知られる。ちなみに、UCS以外の保障制度とは被雇用者社会保障制度(SSS)、公務員医療給付制度(CSMBS)などをいう。全高齢者の約84%がUCSの恩恵を受けている。一方で、民間の高齢者向けの医療保険もあり、高額医療費の負担を抑えるうえで重要な役割を果たしている。

タイの高齢者医療保険・年金システムの一覧_2020_CARE4Vietnam

介護・福祉保障制度

タイには 日本・韓国・台湾のような公的介護保険制度は存在しない 。しかし、高齢化に伴って、医療・福祉関連の支援や政策がことのほか重要になっている。政府はこの重要性を認識し、高齢者のQOL向上を目指して、国民健康保険制度、高齢者向け集合住宅、退職貯蓄制度などの取り組みを進めている。

 

タイの介護施設・介護サービス

近年、タイ政府は国家的戦略として介護施設サービスの拡充に取り組んでいる。タイの介護施設は政府・自治体、赤十字、カトリック系、民間企業等を合わせると、 登録施設ベースで800施設、非登録を合わせると合計7.000施設ほど があると言われている。公的施設の数は少なく、90%以上が民間の小規模事業者である。現在、業界をリードするような企業は不在だが、株式会社病院チェーンの参入が目立っている。

タイ_高齢者向けサービスの類型_老人ホーム .介護施設・退職者住宅_2020_©CARE4 VIETNAM (1)

①公的健康促進センター

公的なデイケア施設として、村健康促進病院内に「高齢者社会サービスセンター」が19ヵ所あり、地域の在宅高齢者を対象に保健医療上の指導、理学療法、デイサービス、余暇活動、一時保護ななどを提供している。これらは政府とボランティアによる健康支援である。

  • Ban Bang Khae Social Welfare Development Center for Older Persons
  • Thammapakorn Social Welfare Development Center For Older Persons

②訪問介護

自宅訪問型では現状、住込みや通いのメイドサービスが大部分を占めるほか、要介護レベルが高く支払い能力がある家庭の高齢者向けに住込み介護士や必要に応じて医師や看護師を派遣するサービスが、日系企業の「リエイ」の他「クルンナムタイ病院 2」など地場の病院・老人ホームオペレーターなどにより提供されている。タイの高所得層は自宅が広く基本的な身の回りの世話はメイドが提供すること、施設に入れることは社会的抵抗もあることから、可能な限り自宅での介護が望まれており、自宅訪問型サービスへのニーズは大きいと考えられるものの、訪問型のサービスは未だ認知度が低い。

③デイケア(通所介護)

低所得者向けには全国各地に拡がるお寺の協力を得て「エルダリークラブ」と呼ばれる無料のデイケアセンターが運営されている(現状51施設)。高所得者向けに民間病院や介護士施設ではデイサービスを提供しているが、バンコクの場合は渋滞がひどく利用しづらい環境がある。

④養護施設

貧困、独居、家族との不仲で居場所が無い高齢者向けの無償の長期住宅支援。社会開発・人間 の安全保障省(MSDHS)管轄の「高齢者社会福祉開発センター」が行う。現在タイ全国に12カ所あり、食料、医療、宗教活動(礼拝・説教など)、娯楽といった生活に必要なサービスを提供している。

しかし、施設と介護者のキャパシティが不足していることから、身の回りのことが自分でできる健康な高齢者のみを受け入れている。その他、自治体管轄の老人ホーム(12ヵ所)がある。最近では、入居費用 10,000THB/月以下の有償施設も増加している。しかし、これらは介護施設というよりも社会保護的救貧という性格が強いものも多く、膨大な数の待機者がいるといわれており、高齢者のニーズに応え切れない状況にある。

⑤老人ホーム

日本のサービス付き高齢者住宅(サ高住)に近いモデルも展開されている。

  • (バンコク・ウェックガーデン・ラプラオ)

⑥介護施設(ナーシングホーム)

最もポピュラーなのがナーシングホームと呼ばれる介護施設だ。タイは日本と違い、介護施設に対して公的資金が投入されることが少なく、基本的には運営企業の自由競争となる。介護施設の登録制度や認証制度は確立されておらず、利用料金に応じて施設・サービスの品質が大きく異なっている。最低10,000THBから、最高級だと90,000THBまでと幅広い価格設定がされている。政府に登録されている施設は7-800程度だが、非登録の施設を入れるとその数は7,000ヵ所以上にのぼる。

医療(介護)を必要とする高齢者向け施設

民間病院の介護サービスは、部屋代と食事代込で 30,000THB/月以上となっており、更におむつ代や薬代は別。ハイエンド向けの高級路線の介護施設は、リハビリを主体とした医療サービス設備をしっかりと整えている。チェンマイ、パタヤ、プーケット、ホアヒンなどでは外国人リタイヤメント層をターゲットにした高級リゾート型施設もある。

医療(介護)を必要としない老人ホーム

保健省への届出は不要のため実数は不明。訪問介護(住み込み介護)事業者が訪問介護を実施していく中で、信頼を得た家族から入院費より安い費用(平均約 20,000THB/月)で住宅を居室に改修し運営している宅老所が多い。その殆どが個人経営の小規模ホームであり、本来届け出をしなければならない「介護」を許可なしで提供するホームも多数存在する。

病院の高齢者専用施設

サミティベート病院シーナカリンは2013年より院内に高齢者向け居住用フロアを開設。その他、クルアイナムタイ病院など国内の大手私立病院が富裕層向けに「高齢者専用病棟」を開設しているケースも多い。療養病院とも言われる。

⑦政府の退職者向け住宅・シニアコンプレックス

比較的新しいサービス形態で、タイ政府主導で不動産デベロッパーと病院が提携して、コンドミニアムやヴィラを売り、入居後に別料金で有料介護サービスを提供するモデルだ。別名、介護付きコンドミニアム。整備区画に介護施設がある住宅街を形成し資産価値を上昇させ機会を見計らって売りに出すような不動産ビジネスでもある。

公共部門の一つであるタイ赤十字が出資している購入型高齢者住宅「サワンカニウェイ」については、1997年建設した第1フェーズ部分の168戸のみならず、2012年に開発を終えた第2 フェーズ部分の300 戸も既に完売している状況。対象は介護の必要ないまたは軽介護の50歳以上の中所得以上のタイ人。

また、トンブリ病院グループなど民間大手病院がバンコク・近郊地域で富裕層向けに退職者専用住宅および介護施設を拡大している。その他各地でシニアコンプレックス開発案件が進んでいる。

 

介護人材の育成

タイ政府は高齢者ケアに関わる人材開発についても国家的戦略として注力している。

看護師

タイの看護師は4年制の看護過程を経て国家資格を取得している比較的社会的地位が高い専門人材である。その数は230,000人以上いるが、殆どは医療機関での看護業務に従事している。病院の老年科や併設の高齢者専用病棟の他に、介護施設で勤務する看護師も一定数いる。

介護士(ナースエイド)

急速な高齢化により介護士の需要が急拡大している。介護現場で働く介護士はナースエイド(NA)と呼ばれる。ナースエイドは国家資格を持つ看護師とは違い、専門学校修了レベルの学歴である。 2011年の私立医療機関に勤務するナースエイドは約20,000人である。看護介護スタッフを養成するクルアイナムタイ病院介護アシスタント(介護福祉士)養成学校等などの教育機関もある。

ケア ・ ワーカー

タイ保健省は地方における要介護高齢者の10%にあたる 10万人の介護を目標に、地域レベルでの介護人材の養成を行っている。保健省は介護にあたる人材として、ケア・マネージャーとケア・ギバーの育成プログラムを策定。2016年までにケア・マネージャー 3,800名、ケア・ ギバー 2,800名を育成した 。ケア・ ギバー1名につき、高齢者 7-10名が割り当てられ、ケア・マネージャー1名がケア・ギバー4-5名を管理するシステムである。

 

今後の展望

今後、更なる高齢化の進展とともに核家族化や都市化など合わさり社会環境が変わり、従来型の介護体制は行き詰まるの見方は強い。高齢化が進む中、介護保険や介護施設関連などの法規制が未整備となっている。各介護サービスの市場潜在性に濃淡はあるものの、ニーズは日増しに拡大している。

数少ない地場の大手企業が、介護事業参入にあたりノウハウを持つ外資企業との提携を検討しており、日系企業の早期の参入が期待される。介護サービスを含む社会保障制度が整備されれば、一気に外国企業のビジネスチャンスは大きくなる。


外部参照


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