日本の介護現場で活躍が一層期待されるベトナム人介護人材。
今回は、日本の介護施設でベトナム人を受け入れることが可能な4制度を正しく理解する為のレポートです。
ベトナム人介護人材の日本派遣制度
ベトナム人介護人材を日本へ派遣する制度は、介護留学、EPA(経済連携協定)、技能実習制度、特定技能の4種類がある。
- 「留学(介護ビザ)」:留学生として養成学校で学び介護福祉士に合格し、介護ビザで長期就労する
- 「EPA」:介護福祉士候補生として介護施設で4年就労しながら国家資格を取得し、介護ビザで長期就労する
- 「技能実習制度」:実習生とて3〜5年間介護施設で研修し、本国へ戻って技術移転する
- 「特定技能1号」:即戦力人材として介護施設で5年間就労する
*上記に加えて5番目の手法、”介護インターン”派遣というスキームもあるがここでは割愛する。
それぞれ、要件・制約が異なるが、募集(マッチング)から在留資格取得または帰国までの流れは以下(図表1)の通りである。

図表1. ベトナム人介護人材派遣制度のワークフロー
1. 介護留学(在留資格「介護」を目指す)
概要
介護留学とは、外国人留学生として 留学ビザで介護福祉士養成学校(大学・専門学校)で勉強し、介護福祉士の国家資格へ合格し在留資格介護(介護ビザ)に切り替えて就労する制度。 資格外活動として週28時間のアルバイトが認められており、学業と並行して介護施設で働くことが可能。
以前は養成施設卒業者は在留資格介護のために介護福祉士資格は必須ではなかったが、法改正を経て2018年より国家試験合格が必要となった。ただし、2021年度までの卒業者には卒後5年間の経過措置が設けられている。
制度主旨
- 開始年:2017年9月
- 目的:留学を経て介護福祉士の国家資格取得し日本で就労する
- 根拠法律:「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」
- 滞在期間:2年半以上
成果・実績
- 受入人数:不明
- 国家試験合格率:不明
募集要件
- 学歴:高校卒業以上
管理団体
- 🇻🇳ベトナム側:日本語学校や留学斡旋機関など
- 🇯🇵日本側:介護福祉士養成学校
介護報酬上の配置算定
- 入職日から6ヶ月間経過したEPA候補者、また日本語能力試験N2以上のEPA候補者は夜勤最低基準において算定可能
各種費用
外国人留学生に対しては都道県の「介護福祉士・社会福祉士修学資金貸付制度」、または介護施設・介護職養成校による独自奨学金が支給、貸与されているケースも多い。中には日本の介護施設がベトナム人留学生の日本語学校と介護専門学校の学費を全額負担することもある。
- 教育・訓練費用:調査中
- 日本への渡航費:調査中
- ベトナムへの帰国費:調査中
- 斡旋機関の仲介手数料:調査中
制度問題点
- 偽装留学生問題により法改正され、ビザ交付率が激減している。
- 留学ブローカーの存在。留学生は斡旋会社へ15万程度を手数料として支払う。
- 留学中は最大週28時間しか介護施設で働けず、労働時間に大きな制約がある。
- アルバイトと並行しての国家試験の受験勉強は難しい。
- 日本の介護専門学校は定員割れが続き、日本語力が低い留学生が多く入学しており、国家資格の合格は難しい。
2. EPA介護(経済連携協定)
概要
EPAはベトナム・フィリピン・インドネシアの3国から 介護福祉士候補生として入国し、介護施設で働きながら勉強し、介護福祉士国家試験を受けて国家資格を取得した上で在留資格「介護」への切り替えを目指す制度 である。当初は試験不合格だった場合は強制帰国となっていたが、新設の特定技能1号へ在留資格を変更すれば、不合格者でも継続して日本での滞在・就労が可能になった。
ベトナムでは看護系の短大・大学を卒業した学生が医療機関へ就職できる割合は30-50%程度と低い。この看護人材(ナース見習い)の需給アランバランスの影響を受けて、臨床経験のない看護大学卒業者がEPA候補者として応募する傾向がある。本制度では、ベトナム人候補者は日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けることが定められている。また、2017年4月から更なる活躍促進のためEPA介護福祉士の就労範囲に訪問系サービスが追加された。
制度主旨
- 開始年:2014年
- 目的:二国間の経済連携の強化。候補者が介護福祉士資格を取得し、引き続き日本に滞在できるようにすることを目的する。
- 根拠法律:日・ベトナム経済連携協定
- 滞在期間:4年(国家試験に合格した場合は在留資格「介護」へ切替え、不合格の場合でも)
- 年間受入数:全体で年間800名
成果・実績
- 受入人数:2014年の開始から2020年の6年間で、延967名のベトナム人介護福士候補者を受入れている。
- 国家試験:2018年よりベトナム第1陣候補者が介護福祉士を初受験し高い合格率を誇っている。累計320名。
- 2018年:第1陣候補者が89名が合格。合格率93.7%(89/95) ※EPAの受験者合格率50.7%
- 2019年:第2陣候補者+再受験者の93名が合格。合格率88%(93/106)
- 2020年:第3陣候補者+再受験者の138名が合格。合格率91%(138/152) ※初受験者の合格率92.2%
入国要件
EPA介護はベトナムの看護師資格を保有していない場合、また2年以上の看護師の実務経験がない場合でも対象となる。一方で、初・中級専門学校卒業者は対象外。訪日前後日本語研修により約1年の日本語研修が行われる。
- 介護技術要件:ベトナムの短期大学(3年制)又は大学(4年制)の看護課程修了
- 日本語能力水準:N3(訪日前日本語研修12ヶ月)またはN2(事前研修免除)
在留資格
- 介護福祉士の国家資格を取得すれば、在留資格”介護ビザ”へ移行し永住可能
- 国家資格に落ちた場合でも、暫定介護福祉士として在留資格を1年間は延長可能、また特定技能1号への移行可能
管理団体
- 🇻🇳ベトナム側:DOLABの認可を受けた送出機関
- 🇯🇵日本側:受入機関(受入企業)
介護報酬上の配置算定
- 入国後の研修を終えて、介護施設に着任してから6ケ月の実習終了後
各種費用
- 教育・訓練費用:調査中
- 日本への渡航費:調査中
- ベトナムへの帰国費:調査中
- 送り出し機関への仲介手数料:調査中
制度問題点
- 国家試験の受験まで辿りつかず、相当数の候補者が本国へ帰国している
- 日本人の同等以上の報酬を受けることが定められているが、それがきちんとなされていない施設,また候補者が理解できていないために給与面に対する不満も一部では出てきている
- 政府予算で実施するEPAによる受け入れ拡大には予算限界がある
3. 技能実習制度(介護職種)
概要
技能実習制度とは 途上国への技能移転による国際貢献を目的としており、日本での就労(出稼ぎ労働)ではなく実習的な意味合いが強い制度 である。既存のEPAと介護留学には人材供給に限界があるため、2017年より技能実習に新たに介護職が加わった。主な送り出し元はベトナム、中国、インドネシア、フィリピン、ミャンマーなど。
制度主旨
- 開始年:2017年11月
- 目的:国際社会への貢献としてのベトナム本国への技術移転。在留資格介護やEPAとは異なり日本での就労ではなく、技能実施で習得した技術をベトナム本国で活かす技術移転を目的としている。
- 滞在期間:最長5年(※途中で特定技能へ切替えて滞在延長が可能)
成果・実績
- 調査中
- 調査中
入国要件
技能実習生は原則的に試験制度は無いが、”介護分野のみ”日本語試験が課されている。
- 日本語能力水準:N4(入国1年以内にN4からN3に合格しないと強制帰国)
管理団体
- 🇻🇳ベトナム側:DOLABの認可を受けた送出機関
- 🇯🇵日本側:団体監理型(受入企業)・企業単独型(事業協同組合や商工会等の非営利団体)
介護報酬上の配置算定
- 入国後の研修を終えて、介護施設に着任してから6ケ月の実習終了後
各種費用
- 教育・訓練費用:調査中
- 日本への渡航費:10万円程度。日本側(受入企業・人材紹介会社)が全負担
- ベトナムへの帰国費:10万円程度(雇用契約に準ずる)
- 送り出し機関への仲介手数料:調査中
在留資格
技能実習の各段階において、技能検定(技能評価試験)を受検し合格する必要がある。一年目には技能検定基礎級(実技・学科)、三年目には3級(実技)、5年目には2級(実技)がそれぞれ課され、合格すれば在留資格を1号、2号、3号へと更新できる。
- 技能実習1号:1年以内
- 技能実習2号:2年以内
- 技能実習3号:2年以内
制度問題点
- 送り出し機関が実習生から徴収できる金額は$3.600と定められているが、実際$6.000 – 10.000程度が相場になっている
- 送り出し機関が実習候補生の獲得競争のために、紹介者へ$1.000 – 1.500/名のコミッションを支払っており、その費用が実習生の支払いに転嫁されている
- 実習生は親、家族、親戚から資金調達しており、足りない部分は借金をしている
- 技能実習制度のマイナス部分がベトナムのテレビ番組やSNSで拡散されている
- 技能実習生の問題がそのまま介護技能実習生にスライドする可能性がある
4. 特定技能(1号)
概要
特定技能とは、日本で深刻化する人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れるため2019年に新規創設された制度である。つまり、 事前に本国で基礎となる介護技能及び日本語能力を習得した前提で来日し、介護施設で即戦力として就労する制度 である。
同じ介護職種であっても、通常の技実習生より実習生・事業者ともにメリットが大きい。まず、ベトナム人就労者は受け入れ先施設と直接雇用契約を結ぶので労働者権利が守られる。また、同職種であれば転職・転籍も自由意志で可能。そして、配属後すぐに報酬算定人数に加算できるので、事業者にとっても利点がある。
現在、ベトナムの他にも中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジア、ネパール、モンゴルが受け入れ対象国として期待されている。今後、ベトナム人介護人材の獲得は技能実習から特定技能へ移行することが予想される。
制度主旨
- 開始年:2019年4月
- 目的:人材不足が深刻な14分野への就労。特定技能人材は一定レベルの技能を持った即戦力として来日する。
- 滞在期間:5年
- 法的根拠:「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」
成果・実績
- 新制度につき未確定だが、2020年より技能実習生から切り替えが徐々に増えている。
- 今後、介護現場で活躍する外国人(ベトナム人を含む)介護人材の数は5年間で最大6万人を見込んでいる。
入国要件
介護職の特定技能は「特定技能技能試験」を複数合格する必要がある。
管理団体
- 🇻🇳ベトナム側:DOLABが認定した送り出し機関(技能実習と同様)
- 🇯🇵日本側:原則、企業と労働者との直接雇用契約だが、管理団体、人材紹介、社労士・行政書士などの登録支援機関へ業務委託を行うケースが多い
介護報酬上の配置算定
- 勤務開始当初から配置基準にカウント可能。(即戦力の位置づけ)
各種費用
- 送り出し機関への仲介手数料:20万円程度(給与1月分以上が目安)
- 在留資格申請費用:15万円程度
- 教育・訓練費用:必要な場合は、日本側(受入企業・人材紹介会社)が全負担
- 日本への渡航費:10万円程度。日本側(受入企業・人材紹介会社)が全負担
- ベトナムへの帰国費:10万円程度(雇用契約に準ずる)
- 人材紹介料:15万円程度(斡旋会社への手数料)
在留資格
- 特定技能1号:5年以内(特定技能2号になれば期限ない)
- 介護福祉士試験の合格:登録すれば、特定技能1号から更新制限の無い在留資格「介護」への変更が可能。
制度問題点
- WEB試験のレベルが曖昧で、候補者の日本語レベル・介護知識を担保できるのか不明。
- 訪問介護は業務対象外。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などで、介護サービスが「訪問系(訪問介護・訪問看護など)」で提供されている場合は、特定技能外国人の受入れ機関として認められない。
- 現在、介護業は「特定技能1号」の対象であり、日本での就労が通算5年に限定。今後、介護業が「特定技能2号」の対象になれば、長期にわたって定年まで雇用可能。
今後の展望
今後の日本の超高齢化社会に備えるためには、日本側でのベトナムを始めとした外国人介護人材の活躍は欠かせない。
介護留学・EPA・外国人技能実習制度の3制度は、そもそも 制度主旨と人手不足解消という業界目的が合致せず 、その矛盾が偽装留学生や人権侵害など様々な問題を生んでいた。こうした背景を鑑みると、今後は2019年新設の 「特定技能」が外国人介護人材雇用のスタンダードとなる と見られている。また、日本に送り出すだけでなく、日本で介護経験を積んだ人がベトナムに戻り、本国での就職先を増やし、日本で学んだ技術をベトナム国内で持続的に継承・発展させるための仕組みを持った”垂直統合の人材移動システム”が必要である。
今後は各制度の在り方を含め、介護人材獲得の国際競争にどのように向かっていくのかを検討する必要がある。ベトナムの介護人材の就労先国の選択肢は何も日本だけはなく、台湾やドイツも人気なのである。日越トータルの好循環で考える国際福祉視点が持続可能な介護人材受入れに欠かせない。
外部参照
- 公益財団法人社会福祉振興・試験センター:介護福祉士国家試験の受験資格について
- 出入国在留管理庁:平成28年入管法改正について(在留資格変更「留学」→「介護」)
- 公益社団法人 国際厚生事業団(JICWELS):EPA看護・介護受入事業について
- 介養協 公益社団法人 日本介護福祉士養成施設協会:介護福祉士を目指す留学生について
- 法務省:介護福祉士養成施設を卒業して介護等の業務に従事する留学生の取扱いについて
- 厚生労働省:介護分野における新たな外国人材の受入れ(在留資格「特定技能」)について
- 国際交流基金:日本語基礎テストについて
- 国際交流基金:日本語能力試験について
- VIETJOE:EPAでベトナム人介護福祉士89人誕生、合格率93.7%の快挙
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