ベトナムの看護師事情|資格・教育・就職・人数・給料・業界の問題点から読み解く

*ベトナムの看護師事情_ナース_Care4

ベトナムの看護師(ナース)に関するレポートです。

 

ベトナムの看護師とは

看護師は地域レベルでは最も専門性の高い医療職として機能

ベトナムで看護師は「Y tá」「 Điều dưỡng」と呼ばれており、医師と共にベトナム医療を前線で支える医療専門職だ。

この国の”看護”は戦争中の応急手当や救急時ケア対応の過程で発展した歴史があり、その背景から看護師の役割は医療補助者として薬剤投与や傷手当などに限られてきた。しかし、1999年を境に近年では看護師は医師の助手的存在から、医師とともに患者へのケアに責任を負うトータルケアを提供するコメディカルへと変化している。

1987年にスウェーデン看護師団の協力により、国立小児病院に最初の看護ルームが設置、ベトナムスウェーデン病院には看護チームが誕生。それから1992年から5年がかりで、全国全ての病院に看護師が配置されたという歴史がある。そして1999年に、ベトナム看護協会の要望が保健省によって承認され、初めて看護師が医療専門職としての社会的地位を確立された。

住民の最も身近な公的医療機関は1次医療圏でプライマリケアを担うコミューン・ヘルスセンター(通称CHC)だが、医師が勤務していない場合も多い。すなわち、地域レベルでは看護師が最も専門性の高い医療職であり、住民の健康を担う大きな役割を持っている。しかし、コミューンヘルスセンターがカバーする地域は広大であり、1~3名程度の看護師が日本で定義する看護業務にとどまらず診察や治療薬の処方のほか、環境衛生業務、予防接種、健康教育、時には助産なども行っている。

 

ベトナムの看護師の資格制度

ベトナムにおける看護師免許は医療行為証明書(Cấp chứng chỉ hành nghề y)と言われている。

ベトナムの看護師免許には 日本のような准看護師試験や国家試験制度は無く、各省において医療従事者証明証を交付し看護師登録するシステム となっている。これは医師歯科医師でさえ殆ど同じだ。

かつては、看護師は看護師養成学校を卒業すれば業務を行っていたが、2011年より保健省は看護師の届け出免許制度を開始。以降、看護学生は教育課程を終えた医療機関での9ヶ月の卒後臨床研修を修了した後、研修修了証明書を保健省あるいは省保健局に免許を申請取得することで晴れて看護師となる。尚、更新制度はない。

2021年より看護師の医療従事証明書を取得するための学歴要件が変更され、大学または短期大学で看護学士を取得した者に限定されることが決まっている。よって、看護系専門学校卒業者は看護師として医療機関へ就業することは出来なくなる。

医療従事者証明証の取得プロセス

  1. 専門教育過程を修了し卒業証明書を取得
  2. 医療機関で看護師として9か月間の臨床研修
  3. 保健省・各省の保険局で、医療従事証明書の申請・交付
  4. 以降、継続研修や免許更新は無い

※出所:「治療と診断に関する法律(Law No 40/2009/ QH12)」(2011)

 

ベトナムの看護教育制度

看護師の基礎教育制度は保健省と教育訓練省が協同で定めているが、具体的なカリキュラムや卒業試験の内容は各教育機関で定められている。次の図表2の通り、看護教育の履修年数で看護師の分類が変わる。

看護過程が2年(専門)、3年(短大)、4年(大学)と多種にわたるため、教育課程修了時の新卒看護師の知識や技術のレベルは一定ではない。また、標準的な卒後臨床研修の内容やカリキュラム等が未だ設定されておらず、研修先の医療機関ごと、質・量ともにバラ付きが大きい。

また、2021年から中級専門学校での医学分野の卒業証書が無効となることが決定している。よって、専門学校卒では医療機関への就職が出来なくなり、学校の保健室や工場の医療室など非医療機関に限られる。そのため今後は短期大学、または大学への編入ケースが増えると予測されている。

ベトナムの看護基礎教育制度

  1. 中級看護:高等学校卒業後に専門学校で2年間の専門教育を受け、病院へ
  2. 高等看護:短期大学で3年間の専門教育を受け、病院へ
  3. 学士看護:大学で4年間の専門教育を受け、病院へ
  4. 専門看護師養成課程:修士・ 博士課程などを修了し、上級医療機関や教育機関へ

ベトナム看護人材の就職フロー_看護師_看護学校_2020

図表2_ベトナムの看護人材の育成・供給

 

ベトナムの看護教育機関

ベトナムでは看護師養成学校には12年間の基礎教育終了後に進学できる仕組みである。全土64県それぞれに医科大学・看護大学・医療系専門学校など、看護師を育成する学校が国立・私立合わせて約150箇所存在する。かつて、1年制の初級医療学校があったが、中級学校へ格上げされ現在は無くなっている。その中級学校も今後は廃止される予定である。

看護教育においては基本的な医療知識や、幼児から高齢者までの看護ケアを幅広く習得できる知識などを体系的に学習する。尚、日本で言う介護教育は独立した概念になっておらず、この看護過程の一部に入っている。

ベトナムの看護教育機関の類型

  • 大学院 Trường sau đại học:不明
  • 看護大学 Đại học (4年制・196単位):26件
  • 医療短期大学 Cao đẳng(3年制・154単位):74件
  • 中級医療学校 Trung cấp y tế(2年制・1260時間):44件 ※省病院に併設・隣接

※出所:小林秋恵,岡西幸恵,ベトナムにおける保健医療および看護の現状.香川県立保健医療大学雑誌(2014)

ベトナムの主要な看護教育大学

まず、専門学校に該当する中級医療学校はベトナムでは最も一般的な中級看護師を養成する機関である。この課程修了後には短期大学編入が可能である。次に、医療短期大学ならびに4年生大学への進学には,全国入学試験(数学・化学・生物)を受ける必要がある。3年制の医療短期大学は看護大学への編入が可能。

そして、4年生大学卒業の看護師は看護学士と呼ばれ一般の看護師とは区別されており、教育機関の教員や高次医療施設の幹部候補で就職することが多く、所謂エリートであると言える。大学で教鞭と取る講師や教授は、修士号を取得して看護現場を経験した看護師であるケースが多い。

また、大学で学士号を取得した学生は大学院への道があるが、大学院の看護学修士課程は2007年に国内で初めて設置された比較的新しい学習過程である。大学・短期大学卒業の看護師が25%,中級医療学校卒業の看護師が75%を占めている。

 

ベトナムの看護師の数・充足率

現在、ベトナムには 約135.000の看護師が登録 されている。人口1万人あたりの医療従事者数は、医師8人・看護師14人となっており。アジア太平洋地域の水準(医師14人・看護師30人)と比較すると、特に看護師は水準値の半分以下であり 看護師不足は深刻 だ。参考までに日本の場合、看護師・准看護師を合わせると150万人以上の看護人材がいる。

2014年看護学分野の卒業生は約28,000人、翌2015年には37,000人だったが、これらの大学生のうち医療機関に就職したのは約25%だと言われている。

ベトナムの医療人材の数(2020年)

※出所:経産相「医療国際展開カントリーレポート 新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報」(2020)

一方で、看護系学校を卒業しても、ベトナム国内の病院・クリニックなど医療機関に就職する割合は低く、50%以下だと推察される。これはそもそも病院や医療施設の求人数が少なく、学生と受け皿である医療機関との受給バランスが取れていないからである。また、特に公立機関の看護師の給料は民間企業と比較しても安く、業務内容に比べて金銭的インセンティブブが低いのも一員である。このように、半分以上の看護学生が医療業界への供給されていないことが分かる。

そうした背景もあり近年では、看護学校の卒業生の中には、海外就職を希望する人も増えている。また、民間クリニックの増加や外資参入で、民間の医療機関へ就職する卒業生が増えている。そして、急速な高齢化民間有料老人ホームも増えるので、これからは就職先に選ばれていくものだと思われる。ベトナムでは介護の概念はまだ薄く、看護師が介護士業務を行うケースが一般的だ。

 

看護師の給料・社会的地位

ベトナムで看護師は人気の高い職業であるが、社会的地位は決して高いわけではない。また、看護学生も医学部や薬学部の学生ほど学力が高くはない。正職員の看護師は社会保障に加入しており、高くはないが一定の給与や年金が保障されている。社会主義国であるため男女の雇用機会は比較的均等であり、日本のように結婚・出産で退職する者は少ない。給料は学士卒が専門卒かで異なるが、総じて高収入が望める職業では無いと認識されてる。

ベトナムの看護師の平均給料

  • 業界平均:調査中
  • 国立病院:調査中
  • 民間病院・クリニック:調査中
  • 外資系病院・クリニック:450-550USD
  • 外資系病院・クリニック(外国人看護師):2,000-2,500USD

 

ベトナム看護の問題点

①看護師の偏在・地域格差

全人口の32%しか居住していない都市部に、医師の59%、看護師の55%が集中しており地域偏在が顕著である。ボリュームゾーンである中級看護師の就職先は都市の大病院や労働条件の良い民間病院の人気が高く、アクセスの悪い地方では看護師不足である。予防医療分野の人材不足も深刻である。

②看護教育システムが未成熟

看護学校が2年課程、3年課程(短大)、4年課程(大学)と多種にわたるため、教育課程修了時の新卒看護師の知識や技術のレベルは一定ではない。また、標準的な卒後臨床研修の内容やカリキュラム等が未だ設定されていないため、研修先の医療機関ごとに研修期間が9か月や12か月と、質・量ともにバラ付きが大きく非均一的な研修が実施されている。

教員の資格要件は明確ではないが、大学や大学院修了者はまだ少なく、看護師養成機関の教員も医師など看護師以外の職種が7割程度と言われており、看護のバックグラウンドを持つ教員育成も急務と言える。大学教育はまだ歴史が浅く、大学での教育資格を持つ者も少ないため、学士課程や修士課程(公衆衛生等)を修了すると、臨床経験がないままに教員となる場合が少なくない。

③新卒看護師の知識・技術レベルのバラ付き

そのため、卒後臨床研修を修了し看護師免許を取得しても、その看護師の能力や質は客観的に保証されていない。事実、 看護分野の卒業生の75%以上がWHO/ASEANの基準を満たしていない と言われている。

看護師の基礎教育制度は保健省と教育訓練省で定めているが,具体的カリキュラムや卒業試験の内容は各教育機関で定められている。また,卒業後の臨床研修も施設により大きな差があり、日本のような看護師国家試験もない。標準卒後臨床研修の整備による新卒看護師育成の仕組み及び質の強化が必要である。

④看護師の社会的地位の低さ、勤務体制の未整備

その重要性にも関わらず看護師が高い評価や社会からの承認を得ることができてない。また、国立の医療機関ではリファラルシステムにより各省や郡から患者が送られ、慢性的なキャパシティオーバーが続いている。よって看護体制も整備されておらず看護学生も看護師の指示のもと現場業務を行っている。また、診療会計や物品資材の受注も看護師の業務である。勤務形態は当直制で実質24時間勤務となっている施設が多い。

⑤看護学生と医療機関の需給バランス及びマッチング

看護系の短期大学と中級医療学校を卒業しても、医療機関に就職できる割合は低く60%以上の学生は他の業界へ就職しているのが実態だ。これはそもそも病院や医療施設の求人数が少なく、学生と受け皿である医療機関との受給バランスが取れていないからである。つまり、半分以上の看護学生が医療業界への供給されていないことが看護師不足の大きな問題となっている。

 

今後の展望

既にベトナムは高齢化社会に突入しており、高齢者介護や慢性疾患への対応といった医療ニーズの多様化・高度化が進んでいる。これに対応するために、看護教育は政府主導で看護師人財の質・量の両側面からの強化が急務である。2021年現在、政府は医師及び看護師国家試験の導入を検討しており、業界の大きなトピックだ。

また、介護職(介護士)という職業概念も確立されておらず、病院の老年科や介護施設では看護師が介護業務を行うことが一般的である。看護教育過程における老齢看護や専門的介護の教育システムの充実も重要な点である。

 


外部参照


ベトナムご勤務を検討される医師・看護師の皆様へ

ベトナムは医療専門職不足から外国人の勤務には比較的寛容な国です。日本の医師免許、歯科医師免許、看護師免許を書換えての勤務が可能です。現地では公立系・地場民間の医療機関だけで医療ニーズを賄いきれないことから、ヘルスケアセクターにおける外国人専門職及び外資企業の活躍機会は大きくなっています。Care4ではベトナムの国際病院・日系医院での勤務を検討される方のご相談を賜っております。

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